アウフヘーベン(止揚)とは?
アウフヘーベン(aufheben)とは対立する問題を、そのものとしては否定しながら、より高い段階で生かすこと。矛盾するものを更に高い段階で統一し解決することを意味します。日本語では止揚(しよう)と言います。
ドイツの哲学者であるヘーゲルが弁証法の中で提唱した概念で、ドイツ語の aufheben には「廃棄する・否定する」という意味と「保存する・高める」という二様の意味があり、ヘーゲルはこの言葉を用いて弁証法的発展を説明しました(ヘーゲル弁証法)。
これまで考えられてきたことや一般的に考えられてきたことと、その対立する概念が現れた時に、その両方の持っている内容の要素を取り出し、新しい視点で考え、より高いレベルでの統合を目指す考え方です。
精神的な問題と現実的な問題
人間の悩みには2種類あって、“精神的な悩み”と“現実的な悩み”を分けて考えると対処法がわかりやすくなります。 精神的な悩みとは、自信がなくてチャレンジできないとかパニックで電車に乗れない、眠れない(不眠症)、食べ過ぎてしまう(過食症)などです。
一方、現実的な悩みとは「DVやモラハラで離婚したいけど、経済的な理由で離婚できない」「毒親から離れたいが、自立する自信がない」などです。 アウフヘーベンは後者の“現実的な悩み”に対しての解決法を導き出すためにはとても役立つ考え方です。
転んでもただでは起きない
ひろゆき氏が「賢い人とは?」と問われ、「ひとつの解決策で2つ以上の問題を解決してしまう人」と言っていましたが、これがまさしくアウフヘーベンです。 問題があった時に、ただ元に戻すのではなく、これまで以上に便利になったり効率的な方法や合理的な方法を考え出し解決法とするのがこのアウフヘーベンの楽しいところ。この「転んでもただでは起きない」という発想がとても良いと思います。
コロナ対策をアウフヘーベンしてみた!
コロナ対策をアウフヘーベンしてみた!
まず命題の1つは「コロナの蔓延はイヤだ」派の人と、それに対するアンチテーゼとして「経済を回すべきだ」派の意見の対立を取り上げてみました。
さて、コロナ対策をアウフヘーベンしてみたところ、やはり必要な対策は
①マスクをする
②できるだけ人と会わない
③ワクチンを打つ
というのが最善策のように思います。
その他にも細かいところでは手洗いやうがい、アルコール消毒などの対策も考えられます。
日本人に限っては「マスクなんて絶対しない!」という人は極少数派なので、日本におけるコロナ対策では有効な手段と言えるでしょう。みんながマスク大好きというわけではありませんが、(同調圧力もあり)ほとんどの方が外出時にはマスクされていますので。
アウフヘーベンと折衷案との違い
コロナ対策における命題のAとBが対立する場合、お互いの間を取って折衷案を落としどころにしようとすると、どちらも納得しない「時短営業」になります。コロナは夜間だけに感染するものではありませんので、夜20時以降の営業を自粛しても、なんの問題解決にもならないことは明白です。
むしろ逆の意見もあって、時短営業をすると営業時間終了の間際になると混雑してしまい、密になってしまうということもリアルに起きていることです。逆に夜中まで営業時間を延ばして、密を避けた方が良いという意見もありました。
感染対策と真逆の方針
対立する命題AとBのうち、「やっぱり経済を回す方が大切でしょう」と一方に振れてしまうと、Go To TravelやGo To Eatのように、感染対策とは真逆の方に振れてしまうこともあります。もちろん経済を回すのはとても大切なことです。しかしやるべき対策は「マスクを厳重にして通常通りの経済活動をしましょう」という事の徹底した周知だと思います。
満員電車の謎
一部の会社はテレワークなどを推進し、自宅にいても仕事が可能になりました。しかし多くの会社は出社することが正しいようで、未だに満員電車が続いていることが不可解でなりません。政府見解として「密を避けましょう」と広報しても、毎朝の満員電車が続いていれば、密を避けることは不可能です。このコロナ問題を機に、出社するよりももっと効率的なアイディアを出せる会社は今後もっと伸びて行くと思います。
もちろん工場での生産などに携わっている方は難しいかもしれませんが、それ以外の方はできるだけ出社しない方向になればいいなぁと思っています。
アウフヘーベンの具体例①:アンソニー
2020年、世はまさしくコロナ禍の渦中でした。アンソニー(トニー)・ロビンズさんは毎年、どこかの国でUPWという2000人規模のセミナーを行っていたのですが、コロナ禍ということもあり人が密集するセミナーなどは断念せざるを得ないという風潮の中、見事にこのUPWというセミナーを成功させました。ZOOM社に掛け合い同時に3万人が繋がれるシステムを開発してもらい、世界中の人が同時中継でセミナーに参加することができたのです。
これまでの会場を借りて2000人人集めてのセミナーでは、例えばオーストラリアで開催された場合はセミナー参加費のほかに現地までの飛行機代や現地での宿泊費なども必要になり、かなり高額な出費となってしまいます。
しかし、ZOOMでのオンラインセミナーでは、世界中のどこからでもネット環境さえあればセミナーに参加することが可能で、しかも安価になりました。しかも参加人数は10倍以上の3万人の方が同時にセミナーを受けることができました。
アウフヘーベンの具体例②:レインボー
レインボーという吉本興業所属のお笑いコンビがいます。以前はもちろん舞台でコントをやっていましたが、コロナ禍でなかなか思うように舞台に立てず、そこでZOOMのやり取りをそのままコントにしてしまうという方法で人気を博しています。舞台のように大掛かりなセットも必要なく、相方と同じ場所にいる必要もなく、自室のような場所で手軽にコントを繰り広げて成功しています。
YOUTUBE:レインボーコントチャンネル
アウフヘーベンの具体例③:コカ・コーラのボトル
容量を減らした方が儲かる。しかし、あからさまに瓶が小さくなるのは望ましくない。そこで考え出されたのが中央部分を凹ませたあの瓶。
瓶の中ほどにくぼみを作ることで容量を減らすことに成功し、しかも滑りにくく持ちやすくなった。さらに特徴的なプロポーションの瓶はcoca-colaの代名詞となるデザインとなったのです。
同時に複数の問題を解決できた天才的アイディアだと言えます。
これってアウフヘーベンだっけ?
ここからは蛇足です。
今回、アウフヘーベンについてインターネットで色々調べていたのですが、概念が難解な上に具体例が少なすぎて理解しづらかったですね。頭の良い方が具体例をたくさん挙げて下さることを望みます。
その中で「これって、アウフヘーベンになってる??」というものがあったので、一緒に考えてみましょう。
例① イチゴ大福、カツカレー
Aさんはイチゴが食べたい。Bさんは大福が食べたい。よって「イチゴ大福」である。 とか、カレーを食べるべきか、とんかつを食べるべきか悩む。よって「カツカレー」である。というものを見かけました。
まず、提出された命題が対立してない。イチゴを食べたい人はイチゴを食べればいいし、大福を食べたい人は大福を食べればいい。はい、解決。
次にただの合体で一段階上のレベルに行っていないような気がするのです。イチゴと大福を合体させるのではなく、まずはイチゴの要素を取り出すべきです。「イチゴとは何か?」「イチゴの何が好きなのか?」ということを明確化し、その要素同士を掛け合わせた時に初めて新しい発想の食べ物が生み出される、それこそがアウフヘーベンだと考えるのです。
この例題は「イチゴ大福」や「カツカレー」という答え在りきの出題になっています。では違う食べ物で、アイスコーヒーが飲みたい人とトマトジュースが飲みたい人だとしたら、ブレンドして解決するのかな? 納豆が食べたい人と牛乳が飲みたい人がいた場合、ブレンドすると解決するのかな? と考えると…、難しそうですね。
こういう「ペンパイナッポーアッポーペン」的な、ただくっつけただけではアウフヘーベンとは言わない気がします。
教えて偉い人!
命題の要素を取り出し様々な視点で眺め新しい発想でより高いレベルの概念を生み出すアウフヘーベンを理解することによって、より効率的な社会生活が実現できると思いますので、みなさんもぜひアウフヘーベンしてみましょう。 そして、身近にあるアウフヘーベンの例などがありましたら、ぜひ教えて頂けると助かります。 長々とお読み頂きありがとうございました。
実生活での問題
心理カウンセリングでも、対立する命題を抱えて身動きができなくなっているクライエントさんからのご相談を受けることがあります。
例えば「DVの旦那とは別れたいが、経済的な自立が難しい…」といった相談や「毒親とすぐに離れたいが、親を見捨てるのが不安」という相談などです。これらの問題に対してもアウフヘーベンの素晴らしい解決法があると良いと思います。
Author:水元和也
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